2012年3月2日金曜日

オバン訓練

放課後にみんなでよく遊びに行った池があったんだけど、そこは

   「絶対立ち入り禁止」

 という池でした。でもそういう池って何故か魅力的だし遊んでて楽しいんだよね。

  でも農家のおばちゃんが夕方になると農作業するためにやってきて怒られます。

  一番捕まるのはザリガニを釣っているときで、これはみんなが池に向かって
 
 集中力を保っているので気がついた時には真後ろに立っていて、

 「あんたらどこの子や、親をよんできなさい!」

 などと言われて、人生が終わったような気持ちになります。

 管理しているのは農家のおばさんなので

 「オバンが来た!」

 といったらみんなはザリガニ釣りに使っている竹の竿とかタコ糸とかを

 そのままほおり出して、いちもくさんに逃げます。サクを飛び越えるルートは

 みんなが集中して順番が詰まるので焦るし、

 焦って服がワイヤーについているトゲに引っ掛かると

 服が破れるかオバンに捕まるかを瞬時に選択する必要が出てきます。

  
 一番最低でみんなから失望されるケースは、ランドセルやカバンをその場に忘れる
 
 事で、オバンの農作業は基本的には3時から5時半ごろまでなので、それが

 終わるまでは取りに戻れません。オバンが長く働いて6時まで帰らないと

 門限が6時の我が家ではオバンとオカンのどちらに怒られるかの選択にも

 悩まされます。

  そんなある日

 「オバンが来た!」

 と誰かが叫びました。みんなあわててランドセルや給食袋をかき集めて背負う

 余裕もなく両手に持って駆け出します。サクを超えるのは順番なので、とりあえず

 サクの向こうにランドセルを投げて、その後に自分がサクを超えます。

 みんなが必死になって逃げている時に誰かが叫びます

 「ウソよねーん」

 「あほやなー、お前ら何ビビってんねん!」

 ってなって誰がどれだけビビって必死になって逃げていたかが

  検証されます。

  「コーチャンは靴を忘れてはだしで逃げていた!」

  「シミタンは一人だけ逆方向に逃げた、みんなを裏切った!」

  「アベチャンは必死にランドセルをサクの向こうに投げててフエが壊れた!」

  「チーは一人で竹藪のほうに逃げたけど、誰も一緒についてきてくれないので

    怖くなって戻ってきた」

  「ケンは田んぼにはまってサンダルが脱げてた」
  
  「ヨッチャンまだ嘘に気がつかずに帰ってこない、

    もしかしたらそのまま家に帰ったんとちゃうか?」 

   となります。

  そう言った状況で一番尊敬されるのは最後まで冷静に逃げなかったヤツです

  「リョウヘイ凄いなー、全然逃げへんかったな、こわなかったん?」

  みたいな称賛があびせられ、そういう人間は一目置かれます。

  「俺せっかくメッチャでっかいザリガニつれそうだったのに、

    嘘のせいで逃げられた」

   って言うやつがいて、最後に誰かが

  「もうオバン訓練するの辞めてや!」

  って言ったので、みんなが「そうやオバン訓練や!オバン訓練!」

   って言って大笑いしました。そのうちに
  
  「おい、誰かの仕掛けにザリが来てるぞ!」

   ってなって、みんなそれぞれ自分の仕掛けの場所にもどってザリガニ釣りが

    再会されます。

  
  そんなことを繰り返しているうちに僕らはすっかりオオカミ少年状態
   
   になっていたある日、今日も釣れへんし、オバン訓練も飽きたなー、って

    「災害は忘れた頃にやってくる」  状態に陥っていた時

   そこにいた7,8名全員が一挙に確保されてしまったことがありました。

    池のふちは低くなっていてみんなそこに降りてつっていたので、

   オバンに上から見下ろされて

   「あんたらどこの小や? サイショウか?(左寺小学校)
     
     センニか?(千里第二小学校)」

    って言われて、学校に電話するからな、この池は危ないから遊んだらアカンで、

    あんなデッカイ柵を作ってるのになんであんたら入ってくるの!
 
    って相当怒られました。

   「みんながオバン訓練ばっかりやってるからこんなことになったんや」
  
   
   「なんでうそついて隣の小学校の生徒って言わへんかってん」

    って帰りに負け惜しみを言いながら、

   「言われるとしたら来週の月曜日の全校朝礼やな」

   「月曜日に言われる前に親に行っておいたほうが良いかな?」


  って話しあいました。結局はその後におとがめは無かったけどね。

  
 
   オバンには火遊びしてて見つかったこともあったし、

  大人の男性専用の写真中心雑誌をみんなで見つけて来て読んでいた時も

 見つかったことあったなー

 あの時はザリガニ釣り以上にみんなの集中力が本に向かっていたので

 オバンが後ろに立っていた時は何が起こったかわからず茫然でした。

 大人になって今思うことはオバンはあの時はモンペみたいなのはいてて

 年よりに見えたけど、今思えばそんなに年ではなかったのかもしれません。

 「オバンが来た!」って叫ばずに、「お姉さんが来た!」ってみんなで

 騒いでたら、あんなに怒らなかったし、なんだったらみかんとか干しイモの一つも
 
 恵んでもらえたのかな? あの頃は女心がわからなかったなー

(だからといって今もわかってるわけではないけど・・・)

  プレステーションもウィーもなかったけど、あの頃毎日楽しかったなー

 想像力使ってたなー、っておもいます。

 大人になって仕事してるとあの時の経験が貴重だったことに気がつかされます。