2017年7月31日月曜日




アウェーの移動中_ロサンゼルスの空港

日本のスポーツ界でのよく言われる気合、根性、理不尽について、2年間アメリカのプロリーグでの経験を基に書いてみたい。

今でも思うが、アメリカのスポーツ界にはそういう概念が無いのだと思う。

ちなみにハワイのプロリーグの練習はとても厳しかった、僕はアメリカのプロは合理的なトレーニングをするものだと思っていたが、実は日本の1,5倍ほどの練習量があった。

単に練習量だけではなく、ハワイの気候も僕にとっては大変だった。気温は30度ほどだが、ドライなので汗がすぐに乾く、しかも南太平洋の島風が常に吹いている。
要は信じられ無いくらいに汗をかいても、それを感じることなく、ずっと気持ちよく動くことができる。

だから気づかないうちに体から水分とミネラルが抜けてしまっている。連日練習していると、慢性疲労が溜まる。

それが日本人としてハワイでプレーして実感したことだった。


練習はとてもハードだった。
なぜこれほどハードなのかハワイの選手に聞くと、ハワイの高校で活躍した大きな体の選手は、みんな大学進学は推薦をもらってアメリカ本土に進学してしまう。
結果的に残った選手は才能はあっても体が小さな選手ばかり。本土のチームに勝つためには厳しい練習で鍛えるしか無い。
彼らには少なからず本土(アメリカ)に対する反骨心がある。それは、沖縄の人が本土の人に対して 持つ感情と似ている。

そんな厳しいハワイの練習をなぜ自分が乗り切れた理由は、コーチングの違いだった。

ハワイのコーチには日本のスポーツ・体育の基本にある「教育」という概念はない。
自分たちはフットボールコーチであり、規律やモラルを教える「体育の先生」という感覚は無いのだ。もちろんチームが勝つために規律やモラルが必要なときはキチンと伝えてくれる。

コーチの一番のモチベーションは
「選手の能力が向上してチームが強くなる」
ことにある。無理に教育者を演じない。

ちなみにヘッドコーチのキャル・リーはハーレーのバイクだ大好きで、オフになるとハーレーに乗ってノースシュアにツーリングに行っていた。

一度ノースシュアで見かけたので、次の練習で声をかけたら、嬉しそうにそのことを話してくれた。その時の顔はフットボールコーチではなく、ハワイの気さくなおじさんだった。

ハワイではいつも練習の初めに必ず、50ヤード10往復というメニューがあった、これは相当キツかった。シーズン途中に本土から移籍してきた選手でこのメニューが嫌で去っていった選手がいたほどで、練習前に憂鬱そうなその選手に、チームメイトがみんなで
「Don't be nervous!」
と冷やかしていた、彼は「ハワイはクレイジーだ!」
と苦笑いしていたが、次の週には居なくなっていた。

そのメニューの時にいつも自分が感じていたことは、コーチの声掛けである
7本目、8本目になるとすでに140キロもある大型の選手は顎があがって、スピードも落ちる、明らかに気持ちが負けた状態になる。

日本のコーチはこの状態を許さない。気持ちが負けている選手を許すと、チーム全体のレベルが下がると感じるからだろう。

しかし、ハワイは逆だった、そうなった選手に対しても
「グッジョブ!」「ハッスル!ハッスル!」
などとコーチが手を叩いで鼓舞するのだ。
すると他の選手もその選手を応援する。だからその選手も前向きに無心で走る。
結果的にゴールした時にはチーム全体に達成感が沸く。

逆に日本の場合、コーチが走りきれなかった選手に対して「もっと走れる」「最後までやれ」などと厳しい言葉をかける。
せっかくみんなで厳しい練習を乗り越えたのに、チームになんとなく後味の悪い雰囲気ができてしまう。

それが連日続くと、体の大きな選手は毎日みんなの前で恥をかくような気持ちになる。そしてだいたいは以下、3つのパターンになる。

◯真面目な選手は責任を感じて辞めてしまう
◯厳しく言われるのが嫌なので、一生懸命に走っている演技をするをするようになる
◯開き直っていくら声掛けをしても無反応になる

単純に考えると、140キロの選手も70キロ選手もお互いに一つの心臓と肺で体を動かすのだから、140キロの選手は70キロの倍追い込まれることになる。
日本のコーチは
「だから練習で追い込んで70キロの選手と同じに走れるように鍛える必要がある」

と考えているのかもしれ無いが、それでは選手がやる気を持続することはできない。

また、そういった選手を吊るし上げることで、他の選手の「自分はああなりたくない」という恐怖心を煽り、チームをまとめようとするにも間違っている。

また、ハワイのアジリティードリルではコーンを5ヤード間隔に置いて、色々なステップで前後左右に走る。という練習があった、練習が始まる前のコーチの指示はただ一つ
「みんなハッスル!」だった
その練習でチームが一番盛り上がるのは、バックステップをしている選手がハッスルしすぎて転んだ時だ。
日本のチームなら転んだ選手が出た場合、周りが冷やかすことが多い、本人も苦笑いする。それは日本人独特の気遣いのようなもので、無視するより、みんなで笑ってあげることでその場を和やかなものにする感覚だ。

しかし、ハワイは違った、ハッスルしすぎて、後ろ向きに転んだ選手に対して、チームみんなが声援を送る、(それはハワイ独特の野生的な掛け声であることが多かったが)チームが一番盛り上がる時がその習慣だった。

また、そこで日本と全く違うと感じるのは転んだ選手は全く恥ずかしがら無い事だった、もの凄く真面目な顔で立ち上がり、全力で走り出すのだ。

はじめは、負け惜しみで真面目な顔をしているのかな?
と感じていたが、そうではなく本人は大真面目だった。

ハワイにはそういった文化があった。だから練習に対してシラケた選手は居なかったし、指導者の顔色を見て練習をする選手もいなかった。

コーチも選手も同じ方向を向いている良いチームだった。





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