2010年5月10日月曜日

薬では治らないこと

 二週間に一度のホスピスの通院で、親父はこの二週間の症状を訴えます。

 痛み、床ずれ、便秘、倦怠感、など親父は家では散々僕にぼやいていますが、

 それを先生に伝えても、新しい薬が増えるだけなので、親父はなるべく症状は軽めに

言います。

 それを後ろで聞きながら、

 「嘘つけ、この二週間毎日のように僕に、ここが痛い、これが嫌だ、どうしようもない」

 って愚痴ってたじゃないか!

 って思いながら、親父は薬が増えるのが嫌なので、言って無い事はわかっていたので、

 後ろで黙って聞いていました。

 先生が

 「浦さん、もし倦怠感とか湯鬱とか恐怖感とかが強くなってきてるのなら、

 安定剤みたいなものがありますよ、それを飲んでもらえれば少しは気持ちが楽になる

 と思いますよ」

 と提案してくれます。

 僕は親父に毎日愚痴られて、しかも言われっぱなしで最後には結局

 「お前にはこの気持ちはわからないだろうな」

 と言われるのはいい加減に嫌だったので、できれば飲んでほしいと思っていましたが、

 そこは親父の意思に任せるべきところなので、黙っていました。でも一度だけ

 あんまり親父がヒツコク
 
 「どうせお前にはお前の気持ちはわからないと思うけど、お前だったらどうする、

  ただ死ぬのを待つだけだ、生きていても意味が無い、お前だったらどうする?」

 となんどもきかれたので、いつもは僕は
 

 「は―!とか、イヤー!」

 とかってぼかしていたけど、その時だけは

 「悪いけど、お父さん、そう言われたってわかるわけ無いじゃん、しかもこっちが何も

言い返せないのわかってて、何回も聞くのは失礼だ、言い返せないのわかってるのに何回

も聞かれると、なんかこっちがいじめられてるみたいな気分になるから辞めて欲しいよ!」

 って言ったことありました。


 ホスピスでの新しい薬の提案を断ることに対しても

 「お父さんは目の前に先生が沢山薬っていう洋服を並べてくれてるし、

着てはどうですか?

 って提案してくれてるのに、それを全く来ようともしないで、ずっと裸で

 寒い! 寒い! って言ってるようなものだよ、寒いんだったら服着れば良いのに

 って僕はいつも思ってるよ。 お前だったらどうする? っていつも聞くけど、

僕だったらとりあえず服を着てみるけど、お父さんは着るの嫌なんでしょ。

だったら僕にどうしたらよい?って聞かないでよ!」

 って言ったこともあります。

 でも僕にもわかっていました7年間の癌の治療の中で、親父は安定剤も試したことが

あるし、それ以外の薬もお医者さんに提案されて色々と試していて、自分のなかで、

 それはあまり効き目が無い事はしっているから飲まないだけなのです。

  
 だから僕があまりそういうことをいって、親父が愚痴を言えないようにしてしまうこ

 ことはあまり良くないとはわかっていました。

 だから僕も毎日は厳しく言わないけど、ときどききちんと話しておかないと、単に

親父が可哀そうだからと思って、ずっと愚痴を聞いていても、お互いに良くないし、

 親父もそれはわかって居るから、たまに僕が厳しく言うのは納得済みでした。

 言われた後は親父も少し安心したような雰囲気があります。

 まあ効き目は三日くらいで、すぐに元にもどるけど、それはそれで良いのです。

 
 病院で先生に安定剤を勧められたときに、親父が僕のほうを振り返って

 「テルヒロはどう思うか?」

 と聞いてきました。

 その時僕は
 
 「親父の愚痴とかボヤキは癌になったからではなく、生まれつきのものなことはみんな

 が知ってるし、安定剤は心の病気には聞くと思うけど、病気ではなくて持って生まれた

 人間性には聞かないとおもうから、飲んでも意味ないかもしれない」

 
 と答えました。

 先生と看護師さんは笑っていました。

 親父も嬉しそうでした。

  「これでまた次回まで二週間は愚痴聞かないといけないな」
 
 って思ったけど、結局親父にとって一番大切なことは家事をしてくれる人よりも
 
 愚痴を聞いてくれる人だということはわかっていたから、自分としても納得できました。

 親父も帰りに
 
 「お前もなかなか上手い事言うな!先生達喜んでたな!」

 と褒めてくれました。 上手い事言ったつもりではなくて、事実を言っただけですが・・

 今はあの時が懐かしくも感じます。

0 件のコメント: